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大阪高等裁判所 平成元年(ラ)57号 決定

抗告人

福永譲治

右代理人弁護士

赤沢敬之

井奥圭介

相手方

千紀美子

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

1  本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

2  当裁判所の判断

当裁判所も、相手方のなした本件不動産引渡命令の申立は相当でありこれを認容すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原決定の理由説示と同じであるから、これをここに引用する。

(1)  原決定二枚目表上から三行目の「その内容は、」の次に「敷金が二〇か月分の賃料額に相当する三〇〇万円で、しかも」を、同五行目の「同契約は」の前に「これらの事実からすると、」をそれぞれ加え、同一一行目の「一件記録によっても」から同末行の「足りない。」までを次のとおり改める。

「上記のとおり、抗告人は本件建物の占有をもって買受人である相手方に対抗し得ないものであるところ、一件記録によれば、抗告人が本件建物につきその主張の改装工事をしたのは、上記の競売開始決定に基づく差押登記がなされた昭和六一年一二月二三日よりも後のことであることが認められる。この点について抗告人は、右の工事は昭和六一年一二月一〇日までに工事を完了したと主張し、その主張にそうかのような資料を提出しているけれども、一件記録中の現況調査報告書に貼付されている四枚の写真(いずれも昭和六二年一月一四日撮影)と抗告人提出のシンエイ建設作成の工事箇所説明物貼付の写真(合計三四枚、撮影日不明)とを対比してみると、右の現況調査の時点(昭和六二年一月一四日)においては、未だ抗告人主張の改装工事はなされていなかったことが明らかであり、抗告人の上記主張は採用できない。そうすると、抗告人は、右の改装工事をした時点では、自己の占有が競落人に対抗できないことになることを知っていたもの、もしくは少なくともこれを知り得たものと推認することができるから、民法二九五条二項の類推適用により右改装工事の費用につき留置権を主張することはできないものと解するのが相当である。」

(2)  抗告理由一について

抗告人は本件建物に対する秋元の賃借権が権利濫用に当たらないことについてるる主張するが、一件記録を精査するも、いずれも上記認定を動かすことはできない。

(3)  抗告理由二について

仮に抗告人主張の改装工事が認められるとしても、抗告人が留置権を主張できないことは、上記で説示したとおりである。

3  よって、原決定は相当であって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官今中道信 裁判官仲江利政 裁判官鳥越健治)

別紙〈省略〉

《参考・②決定の原審決定》

主文

相手方は申立人に対し別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。

理由

1 申立の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

2 そこで、相手方の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の占有権原につき検討するに、一件記録によると次の事実を認めることができる。

(1) 本件建物につき、昭和五五年七月一五日、債権者を株式会社大和銀行とし、債務者を青野實(以下「青野」という。)とする消費貸借契約について抵当権が設定され、同年七月二一日、その旨の登記がなされた。

(2) 青野は、昭和六一年九月三〇日、本件建物を、秋元清治(以下「秋元」という。)に期間を三年間、賃料を月一五万円(三年分前払い済み)、敷金三〇〇万円、賃借権の譲渡・転貸を許すという約定で賃貸した。

(3) 次いで秋元は、昭和六一年一〇月三一日、上記賃借権を、本件相手方に譲渡し、本件相手方は現在本件建物を占有している。

(4) 上記株式会社大和銀行は、本件建物を含む土地建物について競売の申立をし、昭和六一年一二月二三日、競売開始決定に基づく差押登記がなされた。

3 そこで上記事実に照らして判断すると、上記青野と秋元間の賃貸借契約は、前記差押登記の約三か月前に締結されたものであり、またその内容は、賃料が全期間前払済であり、賃借権の譲渡転貸を許すというものであって、同契約は、抵当権者を害する目的でなされたものであると推認できるから、このような賃借権は権利濫用として無効というべきである。そうすると、その賃借権を譲り受けた本件相手方は、民事執行法八三条にいう権原に基づく占有者とはいえない。

また本件相手方は、本件建物について有益費償還請求権に基づく留置権を主張するが、一件記録によっても、本件相手方の支出にかかる費用の具体的工事内容、改造部分、改造による価値の増加性等につきその裏付け資料がなく、支出した費用が有益費であるとの事実はこれを認めるに足りない。したがって留置権の主張は採用できない。

そうすると、本件相手方は引渡命令の相手方となるというべきであって、本件申立は理由がある。

(裁判官井口 博)

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